法人借上社宅の使い方

人手不足が叫ばれる昨今、福利厚生や社内制度がそこで働く従業員・役員を引き付ける要素になることもあります。
今回は不動産に関して法人の利用できる制度をご紹介したいと思います。

住宅手当について

法人が従業員に対して支払う不動産関係の手当といえば、家賃補助が最もメジャーではないかと思います。
例えば賃貸で住んでいる人には、家賃補助を10万円などと決めている会社は多くあります。

また、会社の近くに住んでくれれば補助を支給するというケースもありますね。
今年大きな話題になったZOZO社は幕張手当なる手当があるそうです。
これはこれで会社所在地に住むインセンティブを与え、地域社会、経済に良い影響を…と考えるとすばらしいことです。
企業からしても近くに住んでもらうことには様々なメリットがあります。

住宅手当の計算

さて、ここから先ほどの例で年齢は30歳、扶養なし、
賃料は10万円と仮定して様々な計算をしてみましょう。
(2019年12月現在の協会けんぽ、所得税、住民税は簡易的に計算)

このケースでは、手当と名前はついていても特に非課税での支給などに該当しないため、
社会保険の計算対象であると同時に当然課税対象ともなります。

例えば30万円の給与と家賃補助10万円のみの支給であったケースでは、
給与額面は400,000円となります。
標準報酬月額は410,000円となり、社会保険は総額で58,440円となります。

400,000円 - 58,440 円 = 341,560 円となり、ここから所得税住民税を控除します。
住民税は計算が異なりますが簡易的に計算しますと、
10,600円の所得税と19,000円の住民税を差し引いた、
311,960円が手取りとなります。(可処分所得)

課税後の手取りから家賃を払いますので、
311,960円 - 100,000円 = 211,960円が残りとなります。

また、法人から外に出ていくキャッシュ(現金)は、
給与額面400,000円と社会保険の負担58,440円ですので、
合計では458,440円となります。

法人契約で従業員へ貸与

さて、ここで家賃補助はなくして、
法人が物件を契約し従業員に貸すというケースをみてみましょう。

給与額面は家賃補助をなくしたため、300,000円になります。
標準報酬月額は、300,000円です。

上記のような計算をすると、社会保険の負担は42,300円となり、
所得税6,175円、住民税12,700円ですので、
手取りは238,825円となります。

そして物件の賃料を払うわけですが、
法人に対して例えば1万円払います。
(社会保険の計算上の現物支給については後述しています。)

すると、家賃まで支払った後の残りは、
228,825円となり、家賃補助を出していた時よりも増加しているのが分かります。
先ほどは211,960円でした。

また、法人からのキャッシュアウトも、
給与額面300,000円と社会保険負担42,300円の合計である、342,300円と、
物件の賃料100,000円を足した、442,300円となります。
更に従業員からは家賃負担分を戻して貰う形になりますので、
442,300円 – 10,000円の、432,300円が実質的なキャッシュアウトとなります。
先ほどは法人のキャッシュアウトは、458,440円でした。

社会保険の負担減少による注意点

デメリットもあります。
従業員の方の社会保険の等級が下がっているため、
将来の年金額を始め、健康保険から支給される各種手当など、
いざというときの支給額が減ることです。

では、なぜこの様な数字のトリックみたいなことが起きるのでしょうか。
これは法人が使用人や役員に対して社宅や寮(法人が借りたものも含む)を貸与した際に、一定以上の賃料を法人が受け取っていれば、給与として課税しないというルールがあるからです。
ですから、ここで大切なのは法人が従業員に不動産を貸したとき、
いくらの賃料をもらえば良いかと言う点です。これを「賃貸料相当額」と言います。
この賃貸料相当額を計算し、その額の50%以上を賃料として受け取らなければなりません。

法人契約で従業員から受け取る賃料

これは計算式があります。
詳しくは国税庁のHPにありますが、
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2597.htm

1. その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
2. 12円 × (その建物の総床面積(㎡)/ 3.3 (㎡) )
3. その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%

上記の合計額となります。
実務では固定資産税の課税標準額を把握するのが難しいため、
ざっくりと実際の賃料の50%とかにすることもありますが、
上記の計算式で計算するとかなり小さい金額になるケースが大半です。

通常のワンルームや1K等では、1万円から2万円程度になることも多いです。
上記の例はやや数字合わせ的なものですが、
私自身も社会人一年目は会社借り上げの物件に賃料1万円の負担で住まわせて頂いていました。

異なる現物支給に関しての見解

少しややこしいのは、社会保険や労働保険ではまた異なる計算方法をとることです。

社会保険では、
東京の場合、一畳 × 2.590円が現物支給の額として課税対象となります。
しかもこの計算根拠の「一畳」は居室を基準とするなっています。
つまり廊下やキッチンは含まれません。
これも実務としては正確に居室のみの面積というのは少し難しいです。
通常は総床面積ならば表示されています。

例えば寝室が7畳の部屋の場合は、18,130円となりますので、
この額と本人の負担額の差額が課税対象です。
1万円の負担を本人がしている場合は、18,130円 – 10,000円ですので、
8,130円が現物支給の対象となります。

ですから標準報酬月額は、上記の例でと給与額面300,000円 + 8,130 円ですので、
308,130円が計算の基準となりますが、標準報酬月額は300,000円のままですので計算に影響はありません。

しかし、税額計算と社会保険、更には労働保険で基準や計算方法が異なるのはややこしいところです。

日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20150511.files/2018.pdf

それでも検討する価値のある法人契約

ここでは長くなりましたので労働保険については省略しますが、
これだけ見るとややこしいことが多く敬遠されそうですが、
一度中身を理解してしまえばそれほど難しいことはありません。

それぞれの会社の合った制度設計や賃金体系を構築するのは当然ですが、
このような法人で賃貸契約を行い、従業員へ貸し出すという手段も一つ知っておいて頂きたい制度かと思います。

また、役員への貸与に関しては内容が少し異なります。
また今後詳しく取り上げたいと思いますが、ファミリーオフィスや家族経営の法人、一人法人などでは広く活用されています。